
時を超えて佇む街、ローテンブルクへ
ドイツ南部、バイエルン州にあるローテンブルク・オプ・デア・タウバー。
まるで絵本の中から抜け出してきたような、中世の街並みが今も残る奇跡の場所。
石畳の道、木組みの家々、そびえ立つ城門。
その風景の中を歩いていると、まるで時間の流れがゆっくりと遡っていくような錯覚を覚えます。
この街には、歴史の深みと、かつての人々の想いが静かに息づいています。
雪の降る夜に迎えた、新しい年
ローテンブルクを訪れたのは、大晦日でした。
雪がちらちらと舞い、地面にはうっすらと白い綿のように積もる。
凍えるような寒さの中、石畳を踏みしめながら歩くと、まるで人々の生活の音が響いてくるよう。
夜、ニューイヤーを迎えるために市庁舎前の広場へ向かう。
すでに大勢の人々が集まり、賑やかな笑い声が広場を満たしていました。
23時を過ぎると、花火の音が響き始めます。
寒空の下、高揚した若者たちが爆竹を鳴らし、街は一気に熱気を帯びていきました。
やがて、カウントダウンが始まる。
10、9、8……鐘の音が高らかに鳴り響き、新しい年が訪れる。
その瞬間、目の前に広がった光景に、思わず息をのみました。
まわりの人々が、一斉に抱き合い、愛する人と口づけを交わしていたのです。
そんな中、隣にいた地元の髭の紳士が、
「ほら、お前も一杯やれ」
と、ラッパ飲みしていたワインを差し出してきました。
その瞬間——
この街のあたたかさを、心の奥で感じたのです。
東山魁夷が愛した街
ローテンブルクは、画家・東山魁夷 が生涯愛した街でもあります。
戦前と戦後、彼は何度もこの街を訪れ、何枚もの作品を描きました。
なぜ、彼はこの街にこれほど心惹かれたのでしょう。
それは、ローテンブルクが戦火から奇跡のように蘇った街 だからです。
第二次世界大戦の末期、ローテンブルクは連合軍の空爆を受け、市街地の40%が破壊 されたのです。
戦後、街を再建する際、近代的な都市に作り替えるという選択肢もありました。
しかし、ローテンブルクの人々は迷わなかった。
「この街を、元の姿に戻す」
そう決めたのです。
奇跡の復興——「私たちの街を守る」
戦後、多くの町が新しい建物で再生される中、ローテンブルクの住民たちは、徹底的に「元の街並み」を再現する道を選んだのです。
古い写真や資料をもとに、一つひとつの建物を忠実に再建。
何年もかけて、まるで「時を巻き戻す」ように街が蘇っていったのです。
それは、単なる「復興」ではありません。
それは、この街に生きる人々の誇りだったのです。
東山魁夷は、その精神に心を打たれました。
彼は、ローテンブルクの城門「シュピタール門」に刻まれたラテン語を愛しました。
「Pax intrantibus, Salus exeuntibus」
——「歩み入る者に やすらぎを、去り行く人に しあわせを」
この言葉こそ、ローテンブルクの魂なのかもしれません。
時を超えて、また訪れたい街
ローテンブルクを訪れたときの記憶は、今も心の奥に刻まれています。
静かな石畳の道、
歴史を刻んだ木組みの家々、
そして、人々のあたたかい眼差し——。
戦火に焼かれながらも、人々の手によって蘇ったこの街には、
「何かを守り続けることの尊さ」 があります。
またいつか、この街を訪れることができたなら——
私は、シュピタール門の前に立ち、あの言葉を静かに心に刻みたい。
「歩み入る者に やすらぎを、去り行く人に しあわせを」
それは、この街が今も大切に守り続けている願いなのだから。