
「ジュルビアン」
「Je Reviens(ジュルビアン)」
静かに響くこの言葉の意味を、あなたはご存じでしょうか?
それはフランス語で、「私は戻ってくる」。
戦場へ赴く兵士たちが、愛する人の手にそっと渡した香水。
それは、命をかける戦いに向かう前に交わされた、静かで切ない誓いでした。
兵士たちが残した香り——「私は戻ってくる」
第二次世界大戦中、アメリカの兵士たちは、出征の前に「ジュルビアン」を買い求めました。
彼らは、この香水を愛する恋人や妻に贈り、戦地へと旅立ったのです。
「私は戻ってくる」。その名前に込められたのは、生き延びて再び愛する人と会いたいという切なる願い。
そして同時に、戦場で過ごす日々の間、愛する人の絶望を少しでも和らげたいという優しい想い。
兵士たちは、この香水を手渡しながら、愛する人の瞳の奥に映る想いを、心の目で見つめたことでしょう。
手を取り合い、抱きしめ合い、兵士は最後の優しい眼差しを残し、戦場という遠い場所へと向かいました。
「ジュルビアン」という香水の物語
「ジュルビアン」は、ルネ・ラリックがデザインした香水瓶に収められた、美しい香りの作品。
ルネ・ラリック(1860-1945)——フランス・シャンパーニュ地方に生まれた、アール・ヌーボー、アール・デコを代表するガラス工芸作家、ジュエリーデザイナー。
彼の手がけたガラス作品は、オリエント急行の車両装飾にも用いられ、その優美なデザインは、時を超えて愛されています。
日本では、箱根ラリック美術館で彼の作品に触れることができます。
そして、そこにはこの「ジュルビアン」も展示されているのです。
愛の言葉が綴られた香水瓶
「ジュルビアン」は、実は5つの香水シリーズのひとつ。
それらを並べると、一編の詩のように、愛の言葉が紡がれます。
真夜中に(À Minuit)
夜明け前に(Avant l’Aube)
さよならは言わない(Je Ne Dis Pas Adieu)
私は戻ってくる(Je Reviens)
君のもとへ(Vers Toi)
5つの香水瓶が揃ったとき、それは一通のラブレターとなる。
なんと情熱的で、美しいメッセージなのでしょう。
「私は戻ってくる」。
この言葉だけが独立し、戦地へ向かう兵士と、その恋人の思いをつなぐことになるとは——おそらく、ラリック自身も想像していなかったかもしれません。
その後——香水瓶が刻んだ愛の記憶
戦後、長い時が経ちました。持ち主たちの多くは、この世を去りました。
けれども、香水瓶は今もどこかで静かに息づいています。
誰かの大切な記憶を閉じ込めたまま。
ふとした拍子にアンティークショップで見かけることがあるかもしれません。
それは、戦火を超えて生き延びた、ひとつの愛の証。
手に取った瞬間、ほのかに残る香りに、遠い昔の愛の記憶が、そっと蘇るかもしれません。
「私は戻ってくる」その言葉とともに——。