
「ジュルビアン」
「ジュルビアン」、ご存じでしょうか。
これは香水の名前です。
日本語で、「私は戻ってくる」
第二次世界大戦当時、出征するアメリカ人兵士達が買い求めました。
兵士達は、この香水を、愛する妻や恋人に贈った後、戦地へと赴いたのです。
「私は戻ってくる」
その名前に、戦を前にした兵士達の思いが込められました。
生き延びて、再び愛する人と会いたいという切なる思いを、そして同時に、愛する人の絶望にうちひしがれた心を和らげたい、という優しい思いを込めて贈ったことでしょう。
その永久の時に、兵士は愛する人の目を見つめながら、その愛する人の瞳の奥にある思いをしっかりと心の目で見据えた事でしょう。
そして、兵士の手から愛する人の手へ、その品は手渡されました。
受け取っけ恋人や妻の手を握りしめ、抱擁し、兵士は優しい瞳の輝きを残して、愛する人に背中を見せ、姿を消しました。
香水。
それぞれが様々な素敵な名前を持ちますが、その中でもこの「ジュルビアン」は、歴史の中に、きらりとドラマを残した一品です。
作者ルネ・ラリック。。
作者は、ルネ・ラリック、1862年にフランスシャンパーニュ地方に生まれ、アールヌーボー、アールデコの時代を活躍したガラス工芸作家、ジュエリー作家です。
オリエント急行の客車のガラス工芸品を担当したことでも知られます。
日本でも彼の作品を見ることができます。
箱根ラリック美術館。でこの「ジュルビアン」という作品もあります。
「ジュルビアン」(私は戻ってくる)。
実はこの作品、5連作のひとつとして作られており、全部揃うと一編の詩になります。
「真夜中に」
「夜明け前に」
「さよならは言わない」
「わたしは戻ってくる」
「君のもとへ」
全部揃えば熱いラブレターになるのです。
なんと色っぽく、熱く、素敵な名前なのでしょう。
この中から、「私は戻ってくる」のみが独立し、兵士が命を賭そうとするその時、彼の恋人や夫婦の思いを繋げる事になろうとは、作者ラリック自信も想像もしていなかったことでしょう。
その後その香水瓶は。。
愛する人の手にわたった香水は、その後どうなったのでしょう。
幸運にも戦地から戻ることが出来た兵士は、二人の魂の思いのこもった愛の証として生涯、二人だけの大事な宝物として残ったことでしょう。
そして戦地の露と消えた人は。。
恋人や妻にとって、かつて間違いなくこの世に存在して自分を愛し、命の尽きる前に、自分の存在と引き換えに渡されたその香水。
彼亡き今となっては、その香水は彼の存在そのもの、いや、もう二度と会うこともできない、はち切れんばかりの思いが幸水瓶の重みをさらに増したことでしょう。
そして、二度と会うことのできなくなった人の、深い瞳を、熱い思いを心にとどめながら、ある日、大切な宝箱の奥に、永遠に封印されたことでしょう。
戦後長い時を経た今、持ち主も多くはこの世を去りました。
静かにその香水瓶は、かつて存在した二人だけの深い思いをその中に込めて封印し、今もどこかで静かに存在しているのでしょう。