ドラマ「ツバキ文具店」は良い作品です
NHKで小川糸さん原作、多部未華子さん主演のドラマ「ツバキ文具店」が始まりました。
とても質の高い、良いドラマです。
古都鎌倉の、どこか昭和の風情を残した、人の温もりがあふれる舞台背景の中、物語がくりひろげられます。
多部さん演じる主人公は、祖母の営む代書屋の孫。
一度は祖母の後を継ぐ事に反発して家出、月日が経って鎌倉に戻ってみれば祖母は亡くなっていました。
主人公は意に反して、代書屋というお仕事を引き継ぎながら仕事の意味を知っていくお話です。
代書屋というお仕事、依頼人に代わって伝えたい相手にお手紙を書き、依頼人の気持ちを文字という言葉でお伝えするのです。
言葉の選び方は勿論の事、使用するペンや便箋、書体選びにも、その手紙に適したものを選んで、お客様の伝えたい心に寄り添います。
そして、精神を集中し、魂のこもった文章を手紙にしたため、依頼者の心を相手に届けるのです。
思いを言葉で伝えるという事は、ひょっとするとその人の運命を左右するかもしれない重大で、かつ相手の心を掬い取る繊細なお仕事です。
人と人の間を取り持つ神聖なお仕事です。
代書という、人の心を扱うお仕事を通じて、「言葉』による人と人の繋がりを考えさせられる、ほっこりと心暖まるドラマです。
NHKは質の高いドラマを制作されますが、その中でも「ツバキ文具店」はどうやら当たりのようです。
ここのところNHKのドラマも、気のせいかちょっと以前より質が落ちてきたように感じていたのですが、これは良作ではないでしょうか。
これからの展開が楽しみです。
主演の多部未華子さんの演技は清潔感があってとてもいいです。
人の心を言葉にしたためお届けするという、神聖ともいうべき仕事に向かう、凛とした美しい姿を見せてくれます。
彼女ならではの役柄ではないでしょうか。
私の大好きな女優さんです。
どこか日本画の上村松園に描かれる女性のようです。上村松園は、女性画家として、女性の目から見た、凛とした心からにじみ出る美しさを描いた画家です。
代書屋という仕事
ところで、代書屋というお仕事ってそもそも本当にあるのだろうかと思って、調べてみたら、識字率の低い時代に、実際あったようですね。
字を書けない人に代わって、言葉を媒介する、通訳のようなお仕事です。
主人公の祖母は、そこに人の運命を変えるかもしれない神聖さを見つめ、魂を込めて亡くなるまで誇りをもってお仕事を続けてきたのです。
言葉というものをあらためて考えさせられます。
現代は情報社会。
言葉があふれかえっています。
空虚な言葉がなんと多いことか。
今の社会にあって清冽な美しさを感じさせます。
忘れてしまった言葉の重さ
今や「言葉」は、電子機器を通して、瞬時に相手へ届きます。
ひとつひとつの文字の重さは昔に比べて随分と違うものになったのではないでしょうか。
インターネットのない、電話すらも一般家庭に無かった頃の、手紙の意味を想像します。
手紙は、手書きの文字一文字一文字が、思いを伝える大切な手段だった事でしょう。
受け手にとってはその形すらもが愛しいものだったでしょう。
書き手は何度も便箋に書いては破り、破っては書き、そして何とか納得できる手紙に思いを託したことでしょう。
交通手段も発達していない、車も電車も無かった時代にあっては、会いたくても会えず、手紙のみが人と人とを直接繋ぐことのできる唯一の手段だったでしょう。
別れて暮らす親、旅に出た家族、又仕事で遠く離れた父親と連絡を取る為、手紙をしたためました。
もらった人は文字のひとつひとつからすらも意味を読み取ろうとした事でしょう。
弱々しい筆圧の弱い文字なら健康を気遣い、荒い文字なら、何か困ったことがあるのではないのだろうかと心配する。
源氏物語にも体の弱った親の、鳥の足跡のようなか弱い字をみて、命が短いことを感じさせられるシーンがありました。
今の時代にあって、非近代的な代書という職業を物語の主人公とし、言葉というものについてこれから色々と考えさせられそうです。
鎌倉という優しい昭和の風情を感じさせる舞台で、郷愁を感じさせながら、物語がどんな展開をしていくのかとても楽しみなドラマです。
ツバキ文具店、楽しみです。
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