安野光雅「旅の絵本」と北宋時代の「清明上河図」細密な人々の姿に夢中になる

「旅の絵本」の面白さ

本屋さんで、ふと安野光雅さんの「旅の本」を手にし、思わず懐かしい思い出がよみがえってきました。

その昔、まだ小学生だった妹が、この楽しい絵本を持っていたのです。

何かのプレゼントとして妹が両親からもらったものです。

 

絵は、旅人が船を漕いで、岸に向かうところから始まり、上陸して町を一回りしてまた船で去っていくところで終わります。

頁をめくるごとに、様々な秘密が埋め込まれていて、街の人々の繰り広げる実に細やかな世界と、隠れた「仕掛け」を発見する喜びにワクワクしたものでした。

家族四人で絵本を囲んで、隠された何かを最初に発見しようと、目を皿のようにして絵の世界に入り込み、発見する度に、見つけた!と大喜びしていました。

だまし絵あり、名画あり、映画のシーンや、誰もが知っている何かが隠れているのです。

得意げに「見つけた!」と、声をあげる自慢げな妹の姿がよみがえってきます。

今は、私も妹も巣立って、家族は離れて暮らしていますが、実家の本棚には今でも「旅の絵本」が置いてあります。

懐かしい絵本を見ると、あの当時、父の転勤で暮らしていた、地方の家の匂いや、庭の様子、街や、友達の事までもが、記憶の底から呼び戻されます。

その後も、中学、高校と大きくなって知識がついてくると、さらにまたこんなものがあったのかと、新しい発見があったりするのです。

実に楽しい絵本です。

安野さんが描いた「旅の絵本」、旅人はその後も、様々な国を歩き続けました。

イタリアへ、イギリスへ、アメリカへ、さらに世界中を回って、最後は日本へ帰ってくるのです。

安野さんご出身の津和野も出てきます。

この「旅の絵本」について、いつかテレビで安野さんご自身がおっしゃっていました。

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「清明上河図」

この本の発想の原点は、北京の故宮にある名品、「清明上河図」であり、この素晴らしい作品へのオマージュであるとのこと。

私も大人になって、故宮博物館にある「清明上河図」の存在を知ったとき、安野さんの絵に対して思ったのと同じワクワク感を感じさせられました。

何年か前に日本でも「故宮博物館展」が開催され、この作品が目玉として公開されていました。

中国でも国宝中の国宝「神品」とされる作品です。

「清明上河図」は12世紀の、北宋の都、開封を描いたものです。

北宋最後の皇帝徽宗の為に描いたものとされています。

 

絵巻物となっており、時の大都市、開封の、当時を生きた市井の人々が、実に細やかに、描かれており、喧騒の音までもが聞こえてくるようです。

街の中心に汴河(べんが)が流れ、各地から色んな物資が往来し、流通の中心である大都市ぶりが、うかがえます。

お金を数える商人の姿、酒楼でお酒や会話を楽しむ人々、占いをやっているらしき人、街中で話に花を咲かせてい人たち、街の中央を流れる河へ入ってきた大きな船を操る人たち。物売りの大きな声、食事をする人々の声や喧嘩をする人たち。賑わいの中で肩車された子供。。

街に生きる人たち一人一人の表情まで、実に丁寧に細かく描きこまれていて、いつの間にか私自身も絵の中にはいりこんでいます。

自然に顔がほころんできて、当時のこの街で生きていた人たちの、生活ぶりが息使いまで伝わってきて、興奮して頭が冴えてきます。

しかし、この絵は不思議なことに突然、ぷつっと終わっているんですよね。

なぜ急に終わっているのか知るすべもありません。

この絵は、北宋8代目徽宗の時代に描かれたとも、後にその時代を振り返って描かれたとも言われています。

徽宗は、北宋最後の皇帝としての顔と、一方で文人、画家、音楽とマルチな一流芸術家としての顔を持っていました。

しかし北宋は、金によって滅ぼされ、皇帝の地位を剥奪された徽宗のように、その絵も、ぷっつりと中断しているのは何か関連しているのでしょうか。

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