黒澤明と小津安二郎、二人の名作映画と対照的な作品とと作風、奥の深い表現

黒澤映画の素晴らしさ

大学当時、映画研究会の友人が映画について熱っぽく語るのを聞くのが好きでした。

映画の世界を色々と教えてもらい、卒業するまでの4年間を通じ、結構な本数を見ました。

日本の名匠たちの白黒映画なども見ましたが、特に黒澤映画など親しんで見たものです。

又、歴史好きの延長として、時代劇は昔からよく見ていたかもしれません。

 

黒澤明の映画で最初に見たのは「影武者」でした。

世界的監督であった黒沢明のカンヌ映画祭受賞作ですが、さほど心は動かされず、友人から黒澤映画なら、「七人の侍」や「隠し砦の三悪人」や「用心棒」あたりの、監督の油がのりきった頃の作品が良いと言われたのが、黒澤明の映画ファンの皮切りだったかもしれません。

確かに文句なしに面白い。

ルーカス、スピルバーグをはじめ、世界の大巨匠たちをもとりこにした黒澤監督です。

あのスターウォーズもスタッフは何度も黒澤映画を見せられたとか。

キャラクター設定もC-3POやR2は「隠し砦の三悪人」の太平(千秋実)と又七(藤原釜足)の二人のキャラクターに基づいているほど、黒澤明の影響を色濃く受けているのです。

あのオビワンケノービ役も、もとは三船敏朗に熱烈なラブコールがありました。

黒澤映画の全盛時代、何といっても三船敏郎の存在なしには語れません。

黒澤とともに世界への階段を駆け上がった三船敏郎の存在感は凄まじいばかりの迫力です。

三船の出演する他の監督作品と比べても、黒澤作品の三船は全く凄いの一言です。

黒澤明は「クロサワ天皇」言われるほど、現場では妥協を許さず、ベテランの役者さんであろうと怒号がとびました。

しかし、三船に対しては完全な信頼を寄せ、三船の演じたいように演じさせ、文句もつけなかったといいます。

それどころか、三船のアイデアが映画には多く採用され、まさに三船あっての黒澤、黒澤あっての三船だったのです。

三船は「赤ひげ」以降黒澤映画から姿を消します。

映画製作上、二人に確執が発生したからとも、三船がプロダクションを設立した為、経営上、黒澤映画の長い拘束に応えることができなくなったから、とも言われています。

おそらくはプロダクション経営の問題だったのではと思われますが、いずれにせよ、黒澤映画の画面から、以降三船の姿はぷっつりと消えています。

黒澤明の映画の魅力は、圧倒的なドラマの面白さにあります。

迫力ある画面作りにあります。

用心棒や七人の侍など文句なしに面白く、画面に釘付けにされます。

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小津映画の素晴らしさ

一方で小津安二郎の映画は黒澤映画と対照的です。

黒澤映画の、用心棒の頃の動の世界に対して小津映画は、何気ない日常の静の世界です。

二人の生没年を比較してみると

小津安二郎は、1903年(明治36年)に生まれ、1963年(昭和38年)に60歳で亡くなっています。

一方、黒澤明は、1910年(明治43年)に生まれ、 1998年(平成10年)に88歳で亡くなっています。

黒澤明が7最年下で、ほぼ同年代の監督です。

小津安二郎の映画は、どこのカットを取り上げても、同じような映像が続いています。

正直なところ、昔は小津映画を見たいとも思っていませんでした。

しかし、ある時、小津映画は日常を淡々と描きつつ、奥行きが非常に深いことに気付き、以来小津映画のファンとなりました。

淡々とした小津世界は、小津自身が計算し尽くした完璧な世界が築されているのです。

画面に写る小道具類にも完璧なものを求め、

大変なお金がかけられています。

黒澤明が見えない部分にまで細部にこだわりを見せたのと同様、二人は完璧主義を貫きました。

出来上がった世界観は全く異なるものの、その徹底的な追求心は、共通して驚嘆するほどのものです。

映画会社や裏方は、本当に大変だった事でしょう。

小津安二郎の映像世界は、「小津節」とよばれます。

ロー・ポジションからの撮影は、あまりに有名ですが、その他カメラを固定してショット内の構図を変えなかったり、人物を相似形に配置したり、人物がカメラに向かってしゃったりといった小津独特の映像を、小津節と呼ぶのです。

又、小津映画は、日本の伝統的な生活スタイルを描き、台詞も反復の多い独自の言い回しでした。

カラー映画の時代になると、小津は形へのこだわりに加え、色調にもこだわり、東山魁夷をして、「構図の端正、厳格な点と美しい色の世界にひかれる」と言わしめています。

小津は演技に関しても、一切のアドリブ、位置、セリフ、話のテンポ、動作さえも、役者さんの自由を許さなかったと言います。

私は、最後の作品「秋刀魚の味」が好きです。

裕福な暖かい家庭の家族の日常が淡々と綴られています。

しかし、淡々とした中にも、短いカットの中に、不在の悲しさや、貧しさ、孤独、人間が運命として受け入れなければならない様々な情感が、静かにしかしたっぷりと詰まっているのです。

映画は人生の断片をスライスし、再構築する事

小津映画は、徹底的にそぎおとしていきます。不在によりかえって存在がリアルに引き立つように。

全く黒澤と逆の手法ですね。

映画は、人生をスライスして再構築し、長い人生を2時間弱の長さにまとめるのです。

原理は同じですが利用者も完璧な仕上げぶりですが、出来上がった世界は、全く対照的世界です。

二人の偉大な映画作家を日本人が持ったことは非常に誇らしいことです。

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